フェミニンも悪くない
女性らしさという感覚にあまり縁がなかった私。
4姉妹の末っ子、周りを見れば男の子の友達ばかりでスカートも履かずに野球とスケボー、思春期はサーフィンに憧れるトムボーイだった。
女性らしい身体も持ち合わせていない事はいつもコンプレックスで、いつしか女性らしく振舞うことや、柔らかく、優しくいる事すらなんだか自分っぽくない感覚を覚えた。
この幼少期から引きずって来たトムボーイさは、今のパートナーであるマイクに出会うまで一度もゆるいだ事は無く、男っぽくいる事、それが心地よかった。
マイクは私をさぞ美しいお姫様のように扱ってくれた。
毎日必ず何かを褒めてくれて、すごく輝いている事、彼が美しいと思う私の全てを細かく説明してくれた。
それが物凄く居心地が悪く、気持ち悪く感じた。
むしろ、この人大丈夫?的な感じさえして、彼が私を褒める一言一言がジョークに聞こえた。そんなことを私に真顔で心から言ってくれた人は今まで誰一人いなかったから。
だけど彼は、女性が女性らしさを認めてその部分に光を当てる事を学んだ瞬間から、全てがシフトするという事を知っていたのだ。
綺麗だと言われ、頭の天辺から足の爪先まで愛される幸せというものを感じた瞬間に、今までのトラウマ的な悲しみや過去が全て癒やされ、何度も涙が出た。
幸せすぎて泣いてしまうのだった。
妊婦になった私は、真っ平らで筋肉しかないような身体だった自分が、丸く女性らしいカーブを描いた身体へと変化していくのを見て、すごく不思議だった。
身体の感触もエネルギーも柔らかくて、冷え症だったあの私がいつも温かくいられた。
自分の身体がものすごいスピードで変わって行くことを受け止め、受け入れ、愛らしく思える。
妊婦という体験をしなければ得られなかったであろうこの体験は、私にとって長年連れ添ったトムボーイへの卒業、コンプレックスとお別れする大きなきっかけとなった。
いざ、リベンジの出産
出産に対してリベンジという言葉はきっと相応しくはない。
でも1度目の出産で成し遂げられなかったことや、自分で満足がいかなかった事をおさらいし、もう1度全力でチャレンジしてみたい。
2度目の出産に対して私はそう思ってしまった。
それもそう、前回の出産から14ヶ月しか間が空いていない訳だから、そう思ってしまうのも仕方ないということで。
出産のプランをじっくり立てていると、友人2人がチームとなって出産に向けての準備を手伝ってくれる事になった。
友人の一人が私に提案をした。
「どんな出産にしたいか、いつ陣痛が来てどんな流れで出産に至るか全てを、何曜日の何時頃とか、そんな風に細かくリアルにビジュアライジングして欲しい」
そんな予定通りにはいかないだろうと思いながらも、私なりにストーリーを作り、彼女に伝えた。
長男のマルーが寝ている間に陣痛が始まり、お友達が私のうちに来て寝ているマルーを見ていてくれる。朝マルーが目覚める頃には既に出産は完了し、助産院に生まれたばかりの赤ちゃんに会いに来るといったストーリー。そして2人のお友達が手伝える木曜日に的を絞った。
陣痛が始まったのは水曜の夜だった。家の周りをマイクと一緒に手を繋いで歩き周り、陣痛の間隔が近くなって来ると、寝ているマルーの子守をしてくれる友達の到着と同時に助産院へと車を走らせた。
2度目の出産は自分が今どんな状態なのかが分かるせいか、担当のお産婆さんが助産院に到着していなくても、私は落ち着いて全てに対応する事ができた。
もう未知の世界ではないという状況が自分自身へ自信を与えた。
陣痛が始まってから約5時間、病院に着いてから3時間、呼吸もマインドも乱れず、もうすぐ元気に泳ぐあのマーメイドに逢えることを感じ始め、ワクワクが止まらなかった。
今回の出産では、赤ちゃんを迎えるという枠から少し飛び出てみることにし、私自身も一緒に生まれるというスタイルをやってみたい、という考えが心の中に浮かんできた。
それは赤ちゃんと繋がる為の日課であったメディテーションをした後に、常に浮かんできた事。
自分自身が身体から抜け出し、クリスタルのボールとなって自分の体の中に入る、そして産道を赤ちゃんと一緒に通って降りてくるというイメージ。聞こえはなんだかスピリチュアル系の、現実とは全くかけ離れたことのように聞こえるかもしれないが、それが私の心にやってきた素朴なアイデアだったのだ。(念のため、私は霊的な感覚や体験は一切したことがありません)
まるで嘘のようにフローした出産
「そろそろだ!」
身体とマインドが一体化しているとは、まさにこの瞬間のことだった。導かれるままに、どんどんと身体が勝手にことを進めて行く。
“全ては身体が知っている”とはこの事なのか!
マインドの縛りから解放された時に身体は自由になり、すべき事を勝手にしてくれるのだ。
私は赤ちゃんに聞いてみた。
「Are you ready? – 準備はOK?」
「Yes, I am! – OKよ!」
その声はしっかりと伝わってきた。
「信じられない、赤ちゃんがちゃんと答えてる!」と思いながらも、じゃあ行きましょうか!という感じで自分がクリスタルのボールとなって身体の中に入っていくイメージで、緩やかな光を放ちながらコロコロと転がって行くビジョンを描いた。
クリスタルのボールは産道をゆっくりと転がり下りた。赤ちゃんも一緒に滑って行く。
それはものすごく短い時間に感じ、気がつけば赤ちゃんは子宮口を出かかっていた。
最後赤ちゃんの頭が出てその後に肩が出てくる時に、私は嬉しすぎて楽しすぎて笑いが止まらなかった。「笑ってないで、もうひと押ししなさい」と助産婦さんに注意されたのを覚えている。笑
そして赤ちゃんは驚くことに、羊水が入った膜に包まれたまま生まれてきた。
それは凄くレアな事で、破水をせずお腹にいる時と同じ状態で羊水に包まれて生まれてくる赤ちゃんのことを、ムーンチャイルドと呼ぶそう。
最終的には助産婦さんがその膜を破り水中出産で無事に生まれた赤ちゃんは、妊娠中に何度か見たマーメイドのイメージ通り、女の子だった。
その女の子を腕に抱いたまま、助産婦さんたちに1つ頼みごとをした。
「10分だけ私たちと赤ちゃん3人だけにしてもらえませんか?」
大仕事を終えた私達3人は、温かい出産プールの中で抱き合い、唐突にでも勇気を振り絞って私は彼にひとこと言った。
「Will you merry me? – 結婚しない?」
出産の興奮冷めやらぬ彼は、ショックを隠せずいた。
そして答えは「Yes!」。
出逢ってから全ての展開が早すぎて、結婚や婚約すらするタイミングが無かった私たち。オーストラリアでは事実婚が多く、書類上での籍や結婚式などにこだわらないカップルが多い。しかし私はこう見えても古風で、こういう事はしっかりとしておきたいタイプ。
でも相手が言ってこないのであれば、自分から言うしかない? という思いもあり、第2子が生まれ改めて家族4人になるにあたって、思い切った場所で思い切ってプロポーズをしてみようじゃないか!
私はこのシチュエーションでプロポーズしようとずっと企んでいた。今思い返してみれば、それは私とお腹の中に居た2女と、2人で思いついたちょっとイタズラっぽい作戦のように思える。
今回の出産は全ての流れが絶妙で、私、マイク、赤ちゃん3人のコミュニケーションはしっかりと取れていた。痛さにフォーカスしたり心配に押しつぶされないと、こんなにも出産って楽なものなのか!とも思えた。
次の日の朝、チームで手助けしてくれたお友達の一人が、まさしく私がビジュアライズしたのと全く同じ様に、長男を連れて助産院へ来てくれた。
全てが完璧だった。
この出産を通してビジュアライズする意味、その強さ、そしてリラックスして自分を信じると言うマジックをガツンと見せつけられた貴重な体験だった。
Writer : Maki 3 little spirals
次回第8話は年子ちゃんの子育てと、家庭の危機、平凡な育児と家事の生活にどっぷりと浸かりながらも、人生の本当の意味というものを探って行く30代半ばの様子をお伝えします。
お楽しみに。
本年度も引き続き、mee tokyoと私Maki 3littlespiralsよろしくお願いします。