ママ生活のはじまり
彼と私の間にいつもいる小さい人。
時間は経ってもなぜか慣れない。
彼はやっと軌道に乗って来た仕事を3ヶ月休むことにした。そう、それは世に言う産休。
「君は10ヶ月この子がお腹にいる間一緒に時間を過ごした、だから今度は僕の番!」
「え?」
また常識はずれなことを言っている。
「君はゆっくり身体を回復させて。僕はマルーと肌と肌をピッタリとくっ付けて、親子の絆を今から作り出して行くよ。」
Malou – マルーと名付けた赤ちゃんを横になった自分の胸に乗せて寝かせながら言った。
Skin to Skin – 肌と肌、という新生児とのコミュニケーションの方法を本で学んだ彼は上半身は常に裸、マルーも常に裸。エルゴ(バックパックのような胸につける赤ちゃんキャリアー)にマルーを入れ、彼は家事を全力でやってくれた。
朝はグリーンスムージー、お昼は具沢山のサラダ、夜は温かいスープ。来る日も来る日も彼は楽しそうに家事を続けた。
「世界で一番ヘルシーな母乳が出るように、僕も頑張るよ!」
こんな人いるんだー。
映画に出てくるような素敵な旦那さん。
私には勿体無いなーと他人事のように客観的に感じていた。
そんなに彼が張り切っていて毎日輝いているのに、私はまだ現実が信じられなかった。
この小さくよく眠る人は、ずっとここに居るの?
もしかしたら誰かがある日突然やって来て、「どうもお世話になりました。」と言ってこの人をお持ち帰りしたりするのかな?なんて母親とは思えないことを日々想像していた。
実感がなさすぎた。
あんなに大変な思いをして出産したのにも関わらず、実感がない。
私、おかしい?
でもニコッと笑う赤ちゃんの顔を見ると心が溶け、大変さも吹っ飛んだ。
来る日も来る日も同じことを繰り返した。
おっぱいをあげて、オムツを替えて、寝かせ、遊んで、お風呂に入れる。
今日は何曜なのか、何日なのか全くわからなくなるくらいに毎日が同じ。鏡で自分の顔を数週間見ないことなんてザラだった。
私の子育て8カ条
私が子供を持つことにあまり興味がなかったのは、子供が苦手という他にもうひとつ理由があった。
それは、地球に人がもう一人多く存在するだけで出る無駄やゴミ、地球にかかる負担への心配だった。
それはたった一人だから大丈夫と考えるか、されど一人と考えるかの違い。
世界中の全員の女性やカップルが子供を持つ必要はないのではないか?といつも考えていた。
しかし、母親になれるチャンスを授かったなら、しっかりやりたいと思う真面目な私。
私なりのママとしての決め事を作った。
- 最初の3ヶ月は音、色、香りに気を使い静かに生活する
- 新しいものを出来るだけ買わない(最初の6ヶ月だけでも)
- 布おむつで育てる
- できる限り、食べ物も使う物もホームメイド
- ベビーカーを使わずできる限り抱っこする
- 自然の中で1日のリズムをしっかり作る
- クリーンなものを身体に入れ、ベストな母乳を作る
- 自分の身体をきちんと回復させる
目標を作るといろんなことにやる気が出てきて、子育ても楽しくなってきた。
彼も仕事に戻り、なんとなくペースをつかんできた。
しかしそれもつかの間、また大波がやってきた。
情熱と現実
めまいと吐き気がして、なんだか体の調子がすぐれない。
こんなこと一度もなかった私は、もしかしたら白血病とか、重い病でせっかく幸せな家庭をスタートしたのに、もうすぐ死を迎えるのかもしれない……そんなところまで考え出した。
怖くて病院に行けずに友達に相談すると、すぐに診てもらった方がいいと言われて余計怖くなった。
診察を受け、お医者さんはちょっと心配そうに、5ヶ月になったマルーを抱っこする私を見て一言。
「妊娠してますよ」
「えっ?」
喜びとは真逆、目の前が真っ暗になった。
おっぱいをあげながら、もう一人が私の身体の中で育っているということは、かなりの仕事量。
髪は抜け、歯も爪も元気がなくなり、2人の子に与えられるものを与えたら、自分には何も残っらない気がした。
もしかして、これって双子ちゃんより大変??
私と彼はしばらく落ちた。
でも、もう一人の子がやってきてくれたんだから、やるしかない!と、心を決めたら強い彼。
とにかく栄養価の高い食べ物、オイル、スーパーフード、サプリメントをたっぷり準備してくれた。
それからは大きくなるお腹と、慣れない子育てのダブルで、毎日があっという間に過ぎていった。
そしてまたまた大波は間髪入れずにやってくる。
「友人と3人でサーフィンのフェスティバルをオーガナイズしようと思う。」と彼が言ってきた。
子供が生まれたばかりなのに、新しいことを始める余裕がよくあるなー。そう思いまながらも、楽しそうだし良いんじゃない?と話を聞いた。
3日間のサーフイベントを会社として立ち上げ、本職のサイドで動き出したのはつかの間、彼は始めると入り込むタイプ。
「仕事を辞めて、フェスティバルに集中しようと思う。」
私たちはもう自由な身のカップルではなく、養う人がいる。
本職をやめるということは、貯金で食いつなぐということ。小さい子を抱えた私は働きに出ることもできない為、大きな不安がよぎった。
でも彼の情熱はもう止められないと感じた。
男の人が情熱を持ち、好きなことをしているときの輝きはとても美しい。
しかもそれを仕事にできるならそれに越したことはない。
こうして1年目のバイロンベイ・サーフフェスティバルは大変ながらもなんとか成功を収め、また翌年も開催することになった。
不安と期待の日々
私は臨月に入り、まだ歩く気配のない13ヶ月の息子との日々をとにかく目一杯楽しもうと、家族3人の最後の時間を大切にした。
2人目だからなのか、この子とのマッチングなのか、お腹にいる子とはコミュニケーションも良く取れ、メディテーションでコネクトしたり、イメージやメッセージを受け取ることも簡単に出来た。
ある日水辺の岩に人魚が座っているイメージを受け取った。その人魚は勢いよくしぶきを上げ水中にダイブし、姿が見えなくなった。
赤ちゃんは女の子なのかな……そう思った。
マルーがお腹に居るときも、絶対に男の子だという強いイメージを受け取り、疑いもなく信じた。
性別を調べない事は、お腹の中の赤ちゃんと未知の世界でコネクトでき、自分の直感やインスピレーションを楽しめる最大のギフトだと私は感じる。
サーフフェスティバルに全身全霊を捧げる彼を横目で見ながら、私達家族、大丈夫かな?
ぼんやりと不安がいつも私の心の中にあった。
だけど全てをバランスよくこなそうと頑張る彼の姿、情熱、コミットメント、楽しそうな笑顔、家族へ注ぐ時間と愛情を見ていると、私はただの考えすぎ、「全てうまく行くはずだ」と言い聞かせながら、出産というあの大仕事を楽しめる日まで、今という瞬間を日々楽しんだ。
Writer : Maki 3 little spirals
第7話では、ちょっぴりリベンジ的に挑んだ2度目の出産にて、より身体とマインドがコネクトした素晴らしい体験をお届けします。
出産に興味が無い方も、未体験の方も、これから!もしくはいつかは!という方にもぜひ読んでいただきたい特別なストーリー。
お楽しみに💛