加賀美との4回目のデートは、最近メディアにもよく出ている広告カメラマンの展覧会に行くことになった。恵比寿駅で待ち合わせをして代官山方面に歩いて向かう。

気温は高いものの空は曇っていて、天気予報は見ずに出てきてしまったけれど、一雨降りそうにも見える。傘を持ってこなかったことを少し後悔した。

「だんだん暑くなってきたね。雨降らないといいけど。」

隣を歩く加賀美の横顔を見る。長めの前髪で表情がいまいち読み取れないのは相変わらずで、会うのは4回目だけれど、まだ彼との間には距離があるように感じてしまう。

車を避けようとして少しふらついてしまい、加賀美の腕に私の手が触れた。

脈ありなら、そろそろ手ぐらい握ってもいいんじゃないだろうか、と思うけれど、すっと腕を引いた加賀美の仕草を見る限り、そういうスキンシップはまだまだ遠そうだ。

「今日夕方から雨だよ。傘持ってこなかったの?」

財布とスマホと、リップクリームしかいれていない私のクラッチバッグには、もちろん傘なんて入っていない。

見ると、加賀美の背負っているリュックサックのサイドポケットには、黒い折りたたみ傘が挿さっている。もし雨が降ってきても、私は入れてくれないんだろうな、と考えて一人で苦笑いをしてしまった。

もしも雨が降ってきたら、宮藤さんならスマートに傘を差しかけてくれそうだ。

圭介と3人で飲んだ後、宮藤さんと二人で食事に行った。

相変わらず宮藤さんはスマートで会話も弾み、その日も少し飲みすぎてしまった私は、地下鉄の改札に向かう手前の路地で、彼が唇を寄せてきたのを素直に受け止めてしまった。「まだ2回目なのにごめん。」と照れたように顔を伏せた彼に、なんとも言えない愛おしさのような感覚を覚え、同時に何もしてこない加賀美の顔がちらりと浮かんだ。

大人の恋愛は、2回目のデートでキスをするくらいのスピード感がないとマンネリ化して消えてしまうのかもしれない、と思いつつ、すぐにスキンシップは求めてこない加賀美とのスローペースな関係も悪くないのだろうか、と思っている自分もいる。

ほとんど会話もなく、人気俳優やモデル達を極彩色で切り取ったポートレート写真をじっくり見て、ギャラリーの近くのカフェにランチをしに入った。

「色彩とか、構図とか、ストーリーがあって良かったね。さすが、人気の広告カメラマンなだけある。」

アイスのハーブティーを飲みながら言うと、加賀美が顔をしかめて私を見た。

「そう?なんか商業的すぎて俺はあんまり。」

自分でこれが見たいって言って誘ってきたくせに、その感想はなんだよ、と思ったけれど、飲み下した。

「そう?シビアな意見だね。良平くんは、どんな写真を撮りたいの?」

「俺は、もっと生活感のある写真が撮りたいんだよね。狙って撮った写真じゃなくて、日常がカメラに映り込んだみたいな、見た人が自分でその絵面のストーリーを想像できるみたいな感じっていうか。」

「なるほどね。そういう意味で言うと、さっきの写真は、日常の延長ではないよね。」

「そうそう、なんて言うか、あれは広告作品としてはいいと思うけど、俺の目指してる写真とはちょっと違うんだよね。」

加賀美は、普段は無口でぶっきらぼうな受け答えしかしないのに、写真の話をする時は子どものような表情で、饒舌になる。本当に写真が好きなんだな、とういうことが分かってからは、彼のぶっきらぼうさもなんだか憎めない気がして、もっと彼のそういうところを引き出したいと思ってしまう。

宮藤さんに感じる、分かりやすい大人の男性の魅力とは全く違うけれど、見た目からは想像できない、加賀美の内に秘めた情熱的でクリエイティブな一面を、もっと知りたい。

「今自分の写真は結構撮ってるの?」

「最近は仕事が忙しくてあんまり撮れてないかな…。撮りたいと思える風景があったら撮れるように、カメラは持ち歩いてるけど、あんまり。」

「良平くんの写真、見てみたいな。」

加賀美はインスタグラムもフェイスブックもやっていない。カメラマンを目指しているなら、インスタグラムくらいやればいいのに、と思うけれど、そういう頑ななところもなんだか憎めない。

「今度ポートフォリオ持ってくる。まだあんまり納得がいってないんだけどね。」

私の作る花を、加賀美が写したら、どんな絵になるんだろう。見てみたい気もするけれど、なんだか私が普段他人には見せない一面が写ってしまうのではないか、という気もしてちょっと怖い。

結局今日もまた加賀美とは手も触れずに終わってしまったけれど、一人で焦るのはやめよう、と思いながら駅で彼に手を振った。

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Writer : Miranda

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「二人とも愛しちゃダメですか?」第8話はこちらから

 

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