出会いなんてない、と嘆いていたはずなのに、こうも立て続けに新しい男に会うというのも、私の人生には珍しい展開だ。自分の意に反して友人たちに流されているような気がしなくもないけれど、こういうのはタイミングだということもよく分かっている。

東京駅の「銀の鈴」で母を待ちながら、もう何回目かのため息をついた。

母から東京に行くと連絡があったのが2週間前。宝塚好きの母は、数ヶ月に一度上京してきて友人と観劇し、都心のホテルで一泊して帰って行く。仕事の休みと重なって会える時は、会うようにしているけれど、母に会うのは少し気が重い。

大学を出てすぐに父と見合い結婚をした母は、社会に出て働いた経験がなく、女の幸せは結婚して家庭に入ることだと信じて疑わない。

実家の歯科医を継いで結婚もし、子供を作った兄と比べて、親の反対を押し切って上京し、31になってもなお独身で結婚する気配もない私のことを嘆いてばかりいる。会う度会う度、見合いをしろ、結婚しろ、子供を作れ、と言われるのには正直うんざりしていた。

「お待たせ。…あなた、またそんな暗い色の服を着てるのね?もう春なんだから女性らしい色の服を着なさいよ。」

現れるなりおもむろに小言を言われて、「ほっといてよ」と言いかけた言葉を飲み込む。

母は、胸元にフリルのついたブラウスに、淡いピンクのカーディガンを合わせて、同系色のプリーツスカートとローヒールのパンプスでピンク尽くしという出で立ちだ。アクセサリーもパールで統一していて、確かに、黒のシャツワンピースにコンバースの生成り色のスニーカーを合わせた私よりは“女性らしい”。

「いつものお店でいい?」

「いいわよ。コーヒーは美味しくないけど、どこも混んでるものね。」

何にでも一言付け加えないと気が済まないのは昔からで、反抗期だった頃は、それがどうにも許せず母と話をするのが嫌で仕方がなかった。今では受け流すことが出来るけれど、私が選ぶ全てが母の好みと相反していて、母にとって私は何を考えているのか分からない娘だったんだろうと思う。

「お仕事は?忙しいの?」

「今はちょっと落ち着いているかな。でもブライダルフェアが近いから、その準備でちょっとバタバタしてるけど。」

母は、美味しくないと言いつつコーヒーとミルクレープを注文し、私はアイスコーヒーだけ注文して席についた。

「人様の結婚式もいいけど、少しは自分の人生も考えて頂戴ね。もう若くないんだから。そろそろ本当にお嫁に行けなくなるわよ?お母さんそれが心配だわ。お付き合いしてる人はいないの?」

「今はいないかな…。」

「ねぇ、この人どう思う?」

白いハンドバッグの中から、母が写真を取り出して私に差し出した。
写真には40代前後のスーツを着た男性が写っていて、どうと言われても返答に困るほど、中肉中背でパッとしない容姿に、中途半端な笑顔が浮いている。黙って写真を母に返した。

「お父さんの知り合いの息子さんでね、東京の大学病院に勤務されてるの。」

「…へぇ。」

「まあ確かに見た目はそれほど良くないけど、性格は穏やかで優しい方なんですって。」

母の期待を込めたような表情から目を逸らして、ため息をコーヒーで飲み下した。

「お母さん、私お見合いはしないって言ってるでしょ。相手は自分で探すから。」

「そんなことばかり言ってるけど、あなた、お仕事ばっかりで全然誰も見つからないじゃないの。」

「今は仕事を頑張りたいの。結婚を考えてないわけじゃないけど、タイミングも相手も自分で決めるから、心配しないで。」

「心配するに決まってるでしょ?あなたが思ってるほど世間は甘くないのよ?もう若くないんだから。」

一度も社会に出たことがない母に、世間の何がわかるのだろう。自分がもうそれほど若くないことも、結婚せずに一人で生きて行くかもしれない未来の大変さも、私自身が一番よくわかっている。

仕事だって、この先ずっと今と同じ仕事を続けていけるのかどうか、迷うこともある。それでも、そういう色んな恐怖と戦いながら、私だって必死に生きているのだ。好きでもない男と見合い結婚してまで、母の言う女の幸せを得て、幸せになれるとはどうしても思えない。

母に言い返す言葉がないまま、不意に涙が出そうになったのをこらえて俯いた。

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Writer : Miranda

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