「都もアプリ使えばいいのよ!最近の若い子なんてみんなアプリで出会ってるよ?」
ほろ酔いの華が、何杯目かのワインを手にして私にスマホを突きつけた。
「アプリねぇ…。登録はしてみたんだけど、なんか気が進まなくてさ。」
真紀の旦那さんである学くんが作った鶏肉の煮込みが美味しくて、2回目のおかわりをしながら、華のスマホを遠ざける。
「でもうちのスタッフも結構アプリ使ってる子多いよ?」
酒豪の真紀は、ワインを早々に切り上げてウヰスキーに手をつけていた。
「俺の後輩も、今度結婚するんだけど、出会いはアプリだって言ってたな、そういえば。」
エプロンをしたまま、カウンターキッチンで立って飲んでいる学くんまで焚きつける。
「だって、会ったこともない、話したこともない人といきなり会うなんて無理だってば!」
圭介に教えてもらったアプリに登録して、何人かやりとりはしてみたけれど、そのうち数人からはいきなりセックスしたいと言われ、他の数人はチャットしてみたものの、話が弾まずに終わってしまった。そもそもそこまでマメなタイプでもない私のような人間は、アプリでの出会いに向いていないのは明らかだ。
「そんなの慣れだってば!私も最初は気持ち悪いと思ってたけど、何人か会ってたら、こんなもんなのかなって思えたよ?今はもう一目惚れして付き合ってみたいな流れじゃないんだって。」
華が言うと妙に説得力がある。確かに、普通に生活していたら出会いのきっかけなんて永遠に訪れないと言われたらそんな気がするほど、生活の中に出会いのタネなんて落ちていない。
「都、スマホ貸して。私が見繕ってあげるから。」
「あ、それいいじゃん。華なら目が効きそう。」
「ええ…、そんな、いいってば。」
そう言ったものの、二人の勢いに負けて、ほろ酔いの手でスマホを差し出した。
「……ちょっと、都、こんな写真乗せてたらそりゃあ変な男ばっかり寄ってくるって。」
スマホを手にして早々に華が吠える。
「え、そんなことないでしょ、それは言い過ぎ。」
私がプロフィールに設定したのは、社内報に載る時にプロのカメラマンに撮ってもらった写真で、花束を組んでいるところを斜め上から写した一枚だ。顔が見えすぎていなくていい、と自分では気に入っていたのに、華に真っ向否定されてちょっと傷ついた。
「確かにこの写真じゃ都の良さが伝わらないかな…。」
スマホを覗き込んだ真紀にまでそう言われて、ふてくされてしまう。どうせ私は二人のように写真映えする容姿じゃない。
「わかった。今撮ろうよ。私たちが手を掛ければじゃんじゃんメッセージくるようになるって。」
「あ!それいいかも!服も、都に似合いそうなトップスあるから着てみて欲しいし。」
ふくれ面の私をよそに、突然華と真紀がいろめきたって立ち上がった。
「ちょっと、いいってば。どうせ私は二人みたいに華やかじゃないから。アプリなんか使わなくてもそのうち……」
「どうせ、とか言わないの。都、あんたいいの?このまま一生出会いに恵まれなくても。」
「そうだよ、都、もったいないって、このままじゃ。」
「それは……」
出会いがないならないで別にいいし、なにがどうもったいないのかよく分からない。そう思ったものの、酔いも手伝ってついうっかりふらりと立ち上がってしまった。
「やばい、テンション上がってきた。道具準備する。」
「都、こっち来て、着替えるよ。」
「ほんとにいいってば…、」
立ち上がった途端に酔いが回ってきて、二人に言われるがままに服を着替えたり、ポーズを取ったりしているうちに、すっかり酔いつぶれてしまい、次の朝気がつくといつもより少し濃い目のメイクで、普段なら着ないようなざっくりした淡いベージュのタートルネックを着た自分がいた。一体写真はどんな風に撮れたのか記憶にない。二日酔いで頭が働かず、慌てて仕事に行く準備をしているうちに、アプリのことなんてすっかり忘れてしまった。

Writer : Miranda

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