メッセージの送り主は、加賀美良平という名前だと教えてくれた。私も斉藤都という自分の名前を伝えて、しばらく「加賀美さん」「斉藤さん」と至極お堅い呼び方でメッセージのやりとりをした。

メッセージのやりとりで分かったことは、彼の出身は新潟県で、ファッション系の写真をメインにしている師匠がいること、アシスタントの仕事だけでは東京での一人暮らしが大変で、ライブハウスのバイトと掛け持ちしていること、ゆくゆくは独立してファッション以外にも人物のポートレートなどを撮影したいと思っていること、などだ。やりとりの文章はずっと敬語で、嘘を書いているような雰囲気はない。

2週間ほどメッセージのやりとりをして、お互い仕事が休みの火曜日の昼間に、新宿で会うことになった。

彼に「会ってみませんか?」と言われた時は、正直、どうしよう、と不安になったけれど、会ってみてダメならダメだし、これも何かの縁かもしれないと自分に言い聞かせて、奮い立たせた。

朝から、写真を撮った時に真紀が着せてくれたニットを着るべきか、いつもの私らしい格好で出かけるか散々迷たものの、取り繕ったところで私は私なのだから、と思い至って着慣れた服で出かけることにした。

明るいグレーのVネックニットソーに黒のスキニーデニムを合わせて、チェーンが繊細なダイヤのネックレスと、ゴールドの指輪を差し色にする。シューズとバッグは、淡いピンクのローヒールパンプスと、同系色のミニショルダーを選び、なけなしの女らしさはキープした。

季節はもうすっかり春で、薄手のニットでも少し暑いくらいだ。

待ち合わせの時間より15分も早く、新宿駅東口の交番前に着いてしまい、家を出る前からずっとばくばくしている動悸を落ち着けようと、ゆっくりと深呼吸した。

デートなんて久しぶりな上に、メッセージのやりとりをしただけで、まだ声も聞いたことがない相手と、一体どんな話をすればいいのか分からない。それに、写真のイメージとどこか違う私を見て、がっかりさせてしまうのではないかという不安がこみ上げてきて、手のひらにじんわりと汗が滲んでくる。

道ゆく華やかな女の子たちを眺めて、やっぱりスカートにした方が良かっただろうか、とぼんやり考えていると、急に視界を遮って、加賀美良平が現れた。

「…斉藤さん、ですか?」

想像していたよりも背が高い。声も思ったより低く、濃いネイビーのスウェットトップスと膝が破れたダメージジーンズが、彼の骨格の良さを引き立てていて、写真の印象よりも無骨な雰囲気だ。顔は写真からイメージしていた通り、すっきりと整った鼻筋とまっすぐな目線が印象的で、唯一写真とは違って顎と口の上にうっすらとヒゲが伸びている。

「あ…はい、どうも、加賀美さんですか?」

笑顔が引きつっていないだろうか、と思いながら、精一杯口角をあげて彼を見上げる。心の準備もそこそこに、いきなり対面することになって、動悸がさらに速くなった。

「…どうも。行きましょうか。」

にこりとも笑わずに突然背を向けられて、目の前に壁を置かれたような気持ちになる。確かにメッセージのやりとりも、決してフレンドリーな雰囲気ではなかったけれど、思っていた以上の堅さに正直戸惑った。

写真の印象と違う私を見て、失望したのだろうか、という思いが頭をぐるぐる回って、今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。やっぱりアプリの出会いなんてやめておけば良かった、と思いながら、このまま私が立ち止まっていたら、そのまま雑踏に紛れて行ってしまいそうな加賀美良平の背中を、慌てて追いかけた。

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Writer : Miranda

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