「ねぇ、これって斉藤ちゃんがお花作ったのね。いいじゃない。すごく。」

自分のデスクで、資材の発注表を作っていると、金井さんが私に声をかけてきた。

彼女が隣に来ると、思わずむせそうなほど、シャネルのNo.5が香る。

社内の男性の中には、この人のことを「美魔女」などと言う人もいるけれど、私から見れば40代後半の年相応な顔だと思うし、本人や一部の人間が思っているような、仕事がバリバリできるバリキャリ美人、という印象とは程遠い。

どうやら本人的には自慢らしいボリュームのあるロングヘアにウェーブをかけて、サングラスでかきあげたスタイルが定番で、一体いつの時代のスタイルだよ、とツッコミを入れたくなるし、ちょっとつけすぎ感のあるマツエクや、ストーンやアートを盛ったネイルも痛々しい。いつもゴージャスを履き違えたような、柄物のワンピースに身を包んでいて、妙に体のラインを強調したがるところも、一体誰にアピールしているのだろう、と思ってしまう。

誰彼構わずちゃん付けで呼んだり、けたたましい声で笑ったり喋ったりするのが良い女だと思っているらしい所にも、正直閉口していた。

でも今の所、私に対して彼女が何か攻撃的なことをして来ることはなく、無茶振りと思えることを言われることは確かにあるものの、ホテルからの無茶振りなオーダーに慣れてしまっていた私にとっては、気に病むほどのことではなく、逆に私は拍子抜けしていた。

本社に異動することを報告した数名から「よくあの金井の下なんかについたね。」と驚かれたけれど、きっと私もそうだったように、金井さんのある種強烈な印象が一人歩きした噂だけが皆の耳に入っていたんじゃないかと思っていた。

金井さんが差し出したのは、私が宮藤さんから仕事をもらって撮影した、百貨店のブライダルラインのカタログだった。

二人とも愛しちゃダメですか19話イメージ2

「あ、そうなんです。百貨店の知り合いからお花を頼まれて、参加させてもらいました。」

宮藤さんの顔がちらりと浮かんで、慌てて打ち消す。まさか付き合っていることを、金井さんに知られるわけにはいかない。

「そうだったのね! 今日ここの百貨店の部長さんとランチしてきたんだけど、このカタログとっても評判良いって言ってたわよ。いいじゃんいいじゃん。今度ここのクリスマス装飾の案件もらえそうだから、ミーティングしよ!」

「わかりました。よろしくお願いします! スケジュール入れておきますね。」

「よろしこぉ。」

私にそれだけ言うと、今さっきオフィスに戻ってきたばかりなのに、何やら上機嫌でまたオフィスを出て行ってしまった。

本社に異動して分かったのは、金井さんはクリエイティブディレクターと言っても、実質ほとんどデザイン的な業務はせず、どちらかと言うと渉外営業のような立ち回りが多いらしいということだ。

異動してきてすぐに、いくつかの案件を丸投げされたけれど、彼女は大まかな世界観だけを私に伝えてくるだけで、細かい部分に関してはさほど口出ししてこなかった。

ただ、気分屋だという噂の通り、昨日言っていたことと真逆のことを突然言い出したりすることはあって、せっかく考えたデザインをボツにされることもあったものの、そんなことは婚礼の受注で何万回も経験していることで、目くじらをたてて怒るようなことでもない。

一方で、彼女は私が考えたデザインを、クライアントの前ではさも自分の案かのようにプレゼンする横柄さも持ち合わせていて、おそらく今までのアシスタントたちは、そういう彼女の振る舞いに辟易として辞めてしまったんだろう。

私の異動を知った同期や、喫煙所で会う本社の人たちから「大丈夫? 大変そうだね。」という言葉を何度も言われたけれど、強がりでなく私はアシスタントの仕事を楽しめている。

『お花を作らせていただいたあのドレスのパンフレット、上司に褒められました。』

社屋の屋上の喫煙所で宮藤さんにLINEをした。

『お、マジで! 良かった! 都ちゃんの上司ってもしかして、ちょっと派手めな金井さんて人? 今日部長のランチに同席したんだよね。』

すぐに宮藤さんから返信が来て、思わずにやけてしまう。派手め、という控えめな表現に最大限の気遣いが見える。

『会われたんですね・笑 そうです、だいぶ派手めなあの人が今の上司なんです。』

『あの人と仕事すんの大変そうだね…苦笑 あ、クリスマスの件、多分御社に依頼するからまた一緒に仕事できるといいね!』

『それが、意外と私うまくやれてて・笑 クリスマス装飾、ぜひうちに発注お願いします!』

『あ、急ぎじゃないけど、土曜日のデート行きたい場所あったら教えてね。』

『了解です! 楽しみにしてます!』

ここ最近、宮藤さんからも加賀美からも、「もう一人の男」を意識したことは言われておらず、二人とも態度にも出さない。私は内心焦りを感じているものの、二人の態度に流されて結局何も決められずにいた。

「クリスマスか……。」

思わず声に出してしまって、ため息をつく。

今年もあと数ヶ月で終わってしまう。ぼんやりしていると、このまま毎日に流されて結局全て失ってしまいそうで、急に込み上げていた焦燥感をごまかすように、深々とタバコを吸って息をはいた。

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Writer : Miranda

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「二人とも愛しちゃダメですか?」第18話はこちらから

 

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