真紀から「二人に話したいことがある」と連絡が来たのが一昨日の夜。私もフリーランスのヘアメイクをしている華も、偶然今日の夜は空いていて、私たちがこういう緊急集会の時によく使う恵比寿の和食居酒屋に集まった。

「え、それじゃあその年下くんと、年上の人との板挟みってこと? 都モテモテじゃん。」

真紀のために集まったのに、話の流れで宮藤さんと加賀美の話になってしまって、今の状況を二人に打ち明けた。華は面白がるようにニヤニヤして私を見たけれど、正直私は今、どっちつかずな自分の立ち位置に疲れてしまっていた。

「都は、本音で言うとどっちがいいと思ってるの?」

メニューから顔を上げて真紀が言う。

「私は……、本当に正直に言うと、二人とも好きでいちゃだめなのかな、とか思ってるんだよね。そんなこと良いわけないのに、どっちかとは別れて片方だけを選ぶのが、どうしてもできなくて。」

自分でも、言っていることが最低なのは分かっているけれど、二人に嘘はつきたくない。

宮藤さんを選ぶべきなのか、加賀美を選ぶべきなのか、考えれば考えるほど、気持ちが混乱して、考えること自体を拒否してしまう。もういっそ、どちらも選ばずに一人になれば楽になれるんじゃないか、とまで思ってしまっていた。

「焦ることないと思うよ。ここまで結構トントン拍子に二人との関係が発展しちゃったから、都の気持ちが追いついてないのは仕方ないよ。」

真紀の優しい言葉に、涙が出そうになる。

でも、今日は真紀の話を聞くために集まったのだ。私は店員を呼びつつ、真紀に水を向けた。

「私の話はいいとして、真紀、何かあったの?」

私はちらりと、少し前に真紀から、学君に子供を作りたいと言われた、と話していたことを思い出していた。まさか別れることにしたんだろうか、と悪い方向に考えてしまって、慌てて頭の中で打ち消す。

自分のブランドを立ち上げて、ディレクターとして頑張っている真紀と、そのブランドでパタンナーをしている学君はどこからどう見てもお似合いの夫婦だ。二人には幸せでいてほしい。

真紀が口を開きかけたタイミングで店員がオーダーを取りに来てしまった。

「私とりあえずビールにしようかな。都と真紀は?」

「私もビールにしようかな。」

「私はウーロン茶で。」

真紀の発言を聞いて、私と華は思わず揃って真紀の顔を見た。自他共に認める酒豪の真紀が、一杯目にウーロン茶を頼むなんて、ありえない。

「え?真紀どうしたの。ウーロン茶?」

華が驚いたように言う。一瞬私は頭の中で「もしや妊娠……?」と思ったけれど、とりあえず口には出さずに飲み込んだ。

「うん、ちょっと今日はお酒控えなきゃで。」

「なんだ。体調でも悪いの?珍しい。」

店員さんにドリンクと、つまみを数種類オーダーして、私と華は真紀が話し始めるのを待った。

数秒沈黙が続いて、ようやく話す決心をしたらしい真紀が口を開く。

「実は、……妊娠したの。私。」

私は内心、やっぱりそうか、と思ったけれど、華は青天の霹靂といった様子で、目をまん丸にして驚いている。

「え、え……子ども?! そうなんだ。そっか。おめでとう、なのかな?」

華が私の顔を見て、言葉を促す。

「真紀、もしかして、産むかどうするか悩んでるの?」

私は、言葉を選ばずに、単刀直入に聞いてみた。この間の話からすると、真紀は今子どもは要らないと思っていて、だとすると望まない妊娠なのではないかと思ったからだ。

俯いた真紀が、ゆっくりと顔を上げる。

「正直ね、妊娠が分かった時は、なんで今? って思ったんだけど……、でも子どもって授かりものじゃない? だから、堕ろすっていう選択はどうしてもできなくて、学とも話して産むことにしたの。ほんと私でもこんなに何かを悩むことがあるのか、ってくらいに悩んじゃって、二人にもなかなか言い出せなくて、ごめんね。」

「何言ってるの真紀、そんなこと謝らなくていいから。私は真紀の決断を応援するよ。」

私は内心ちょっとホッとして、真紀の顔を見た。

「そうだよ、真紀、これはおめでたいことなんだから、そんな顔しないで。」

不意に、真紀の大きな目から涙がこぼれて頰に落ちた。

二人とも愛しちゃダメですか18話イメージ1

「正直ね……、最初は、なんでこのタイミングで、って思っちゃったの。ブランドだってまだまだこれからだし、私はもう少し学と二人の時間が欲しかったから。だから、そんなこと考えるような私なんて、到底良い母親になれるわけがないって、思ったら苦しくて。」

真紀が泣くところを、私も華もほとんど見たことがない。それくらい、彼女はいつもまっすぐで前向きで、だからこそ、こんなに涙をこぼしてしまうくらいに悩んでいたことの重さが伝わってきて、思わず私は真紀の手を握った。

「いいんだよ、真紀。予定していたわけじゃないんだもん。突然授かったらそりゃあ不安にもなるよ。そんなに自分を追い詰めてたなんて、全然気がつかなくてごめんね。」

華が真紀にハンドタオルを手渡しながら言う。

「ありがとう。でもね、学ともいろいろ話しをして、今は妊娠したことを、やっとポジティブに捉えられるようになってきたの。こんな私にちゃんと母性が目覚めるのか、心配だけど、でもきっと大丈夫だよね。」

当然ながら妊娠したことがない私は、軽々しく「そうだよ、大丈夫だよ。」とは言えない気がして、ただまっすぐにうなずいて真紀の顔を見た。

母性は恋愛と同じで、その時が来れば自然と自分の中から湧き上がってくるのだろうか。

目下恋愛さえもうまくハンドリングできていない私には、妊娠して子供を持つということが、なんだかものすごく自分とは遠いことのような気がして、うまく言葉が出てこない。

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Writer : Miranda

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「二人とも愛しちゃダメですか?」第17話はこちらから

 

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