加賀美から仕事が終わるまで待ってほしいと言われ、圭介に連れられて安居酒屋に入ったものの、私の気持ちはどん底で、考えれば考えるほど今すぐにここで消えてしまいたい気持ちに駆られた。

「そんな顔しないの。とりあえず飲みなさい。あなた素面じゃ絶対何も言えないわよ。」

圭介が無理やり私にグラスを押し付ける。ひと口飲んだものの、到底酔えるような気分ではなく、むしろ緊張のしすぎで今飲んだものをそのまま吐き出してしまいそうだ。

もうじき加賀美の仕事が終わる時間だけれど、私の中で何も考えがまとまっておらず、不安ばかりが大きくなる。

「いい?まずは彼の話を聞くの。彼が今どんな気持ちでいて、どうしたいと思っているのかをきちんと聞いてから話すのよ。」

「……うん。わかった。……圭介も一緒にいてよ。」

「何バカ言ってるの!部外者のあたしがいたら、彼だって何も言えないでしょ。彼が来たらあたしは退散するわ。しっかりしてよ都。」

まったくもってしっかり出来ていない私のスマホが、震えた。

『到着しました。上あがります。』

ずっと未読のままだった加賀美からのLINEを見て、みぞおちのあたりがぎゅっと重くなる。

「どうしよう、圭介、私本当に何を話せばいいか分からないよ。」

「大丈夫よ。まず話すのは、彼の方。都は彼の言葉を全部ちゃんと受け止めなさい。そうすれば言うべき言葉が出てくるから。」

すがる私の手に、千円札を数枚置いて、圭介が立ち上がる。

ちょうど店に入って来た加賀美が、歩いてきて圭介と私を交互に見た。

「いきなり押しかけてごめんなさいね。あたしは退散するから、あとは二人でちゃんと話し合って。」

圭介が店を出るのを、目で追ってから、加賀美が私の向かいに腰を下ろした。

おしぼりを持った店員がテーブルに来て、何か頼むように加賀美に促す。

「生、ひとつ。」

加賀美は短く店員に告げて、目を伏せた。

「急に押しかけてごめんね。」

圭介から、まずは加賀美の話を聞けと言われたのに、黙っていると沈黙が続きそうで、言葉が口をつく。せきを切って溢れ出しそうな言葉をなんとか押しとどめて、ゆっくりと息を吐いた。

加賀美は何も言わずに俯いたまま、机の上に組んだ手を乗せる。

「話ってなんですか。」

私の方は見ずに、手元に目線を落としたまま、加賀美が口を開いた。

「俺との関係は遊びだったんですよね?だったら別にそれでいいです。信じた俺がバカだっただけなんで。」

ようやく顔を上げた加賀美の目が、真っ赤に充血していて、彼がこらえている気持ちの重さを思い知らされる。

「違うの。本当にあれは、誤解で……。宮藤さんとは……、」

宮藤さんとの関係をなんと説明するべきなのか、言葉が選べずに口ごもる。

「……結婚を前提に付き合ってるんですよね?」

加賀美の声が少し震えた。

「……違うの。ほんとうに。あれは、彼が…先走って、私はそんなつもりはなくて……、」

言い訳を重ねようとした私を遮るように店員がビールを持って現れ、加賀美の前にグラスとお通しの小鉢を置く。

「あの人とも遊びだったってことですか?」

ビールのグラスを傾けて、加賀美が挑むように私を見る。

一体なんと説明すれば、加賀美に分かってもらえるのだろうか。でもそもそも私自身が二人との関係を曖昧にしていたのだから、うまく説明できるわけがない。

「遊びのつもりはなかったの。本当に、これだけは信じて。偶然良平くんと宮藤さんと同時期に出会ってしまったから、自分の中でも二人との関係をどうすればいいのか、答えが出せないままずるずる付き合ってしまって……だから、うまく言葉にできないんだけど、良平くんとの関係が遊びだったってことは本当になくて……。」

自分でも何を話しているのか混乱してしまい、口をつぐんで加賀美を見た。

「……じゃあ、俺とあの人は対等なんですか?」

一瞬、加賀美の言葉の意味が飲み込めずに、頭の中で言葉を反芻してしまった。

「都さんの中で、俺とあの人は対等なんですか?」

私の顔を見て、加賀美が畳み掛けるように言う。対等と言っていいのか、考えがまとまらずに目を伏せた。なんと答えればいいのか、頭が回らない。

「出ましょうか。」

私の答えを待たずに、加賀美が低い声で言って立ち上がる。

「え……、でも、」

会計の札を持って立ち上がった加賀美の後を、慌てて追った。

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Writer : Miranda

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「二人とも愛しちゃダメですか?」第15話はこちらから

 

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