前日に1日かけて作ったブーケやヘッドドレスを積み込んだハイエースを、撮影スタジオの駐車場に駐めて、サイドミラーで顔をチェックした。別に私がモデルになる訳じゃないけれど、前日の疲労が顔に出ていないかだけ確認する。

「都ちゃん、おはよう。朝早くてごめんね。」

バックシートに乗せたブーケをおろそうとしていると、後ろから声がした。振り返ると、ネイビーのポロシャツにチノパンというラフな格好の宮藤さんが立っていて、私に笑顔を向けてくれる。

「おはようございます。朝早いのは慣れてるんで、全然大丈夫です。なんか、そういう服装の宮藤さん新鮮です。いつもスーツだから。」

「あれ、そっか。俺の私服見るの今日が初めて?俺も運ぶの手伝うよ。」

「あ、助かります。すいません。」

私が手渡したブーケのケースを受け取りながら、宮藤さんが小声で「今度は私服の時にデートしよ。」と囁いた。いたずらっぽい顔に思わずキュンとしてしまう。宮藤さんが仕事をしているところを見ることができるのが、嬉しかった。

宮藤さんの後について、スタジオに入ると、すでに撮影用のライトやドレスに合わせる小物がところ狭しと並んでいて、初めて足を踏み入れる撮影現場の空気に圧倒された。

「斉藤ちゃん、おはよう!お花待ってた!」

スタイリストの遠藤さんが、アシスタントらしき女の子と一緒に私の方に歩いてくる。

「お待たせしました。今日は余分の花も多めに持って来てるんで、追加があればすぐに作ります。」

「嬉しい嬉しい!昨日ちょうどいい花瓶見つけたからそこに花を入れたくて。」

「すぐに行きますね。」

宮藤さんが用意してくれていたスペースにブーケを並べてから、あまりの花をまとめたケースを持っていく。

「どんなイメージがいいですか?いろいろ対応できるように多めにもってきたので。」

「ボルドーっぽい色の花ある?絵的にどうかな。タケちゃん、ちょっと来てくれる?」

遠藤さんがカメラマンさんを呼んだ。

束の中からボルドー色のダリアの花と、バラを取り出して、カメラマンさんの方を見た私は、その場で思わず固まってしまった。

カメラマンさんの脇に加賀美が立っていたからだ。

「え、良平くん…?」

思わずいつもの癖で、下の名前を呼んでしまって、しまったと思った。

「あれ、二人知り合いなの?」

遠藤さんが私の顔を見る。知り合いというかなんというか、と思いながら加賀美を見ると、驚いた顔で私を見て立ち尽くしている。

「の、飲み友達なんです。」

思わず、嘘ではないが正しい答えでもない言い方をしてしまった。まさか、キスまではした仲です、なんて言える筈もない。

「え?都ちゃんの知り合い?」

間が悪い時にこちらにやって来た宮藤さんが、私と加賀美を見比べた。勘のいい宮藤さんに、なにか悟られやしないかと、冷や汗をかきながら取り繕うように、笑顔を作って加賀美から目をそらす。

「たまに飲みに行く友達で。」

二度も嘘を言うのは気が引けたが、他に言いようがない。

まさか、こんなところで鉢合わせるなどとは思いもしなかった。

加賀美は何も言わずにただ気まずそうな顔をして俯いている。

「ほんとこの業界って狭いわぁ。」

何も気づいていない様子の遠藤さんが笑いながら言って、場は和んだものの、私は内心パニクっていた。

「タケちゃん、ここに花を入れようと思うんだけど、絵的にどうかな。」

私は動揺をごまかすように、遠藤さんが用意したテーブルの上の花瓶に花を入れた。

「花がある方が、いいかもね。ちょっと加賀美、そこに立ってみて。」

カメラマンさんに指示された加賀美が私のいるテーブルのそばに来る。目があったけれど、加賀美は表情を変えずに、指示された場所に立った。

「俺的には、もう少しボリュームが少なくてもいいような気がする。モデルのちょっと後ろに色が入るのはいいね。」

「そうだね。斉藤ちゃん、もうすこしボリューム少なめにしてみてくれる?」

「わかりました!」

そばに加賀美がいることを、意識しないようにしても、つい目をやってしまう。

今は仕事に集中しよう、とこっそり深呼吸をしながら、花瓶に生けた花を何本か抜いて、形を整えた。

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Writer : Miranda

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「二人とも愛しちゃダメですか?」第12話はこちらから

 

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