「宮藤さんは、恋愛されてないんですか?」
普段はそんなことを聞いたりしないけれど、ほんのり酔いが回っていて、思わず口にしてしまった。
「俺も最近は全く恋とかしてないんだよね。2年前に離婚してからは、ちょっと色々と思うところもあって。」
「宮藤きゅんはなんで離婚したわけ?」
私が聞きたかったことを、圭介があっさりと口にする。
「んー、妻とは会社の同期で、入社3年目で結婚したんだけど、子供が欲しいっていう彼女の希望に答えられなくてね。それで別れたんだ。まあ今は彼女も別の人と結婚して、子供も生まれたから、それでよかったんじゃないかと思ってるんだけど。」
何故か宮藤さんが私を見て答えた。
「あら、じゃあ問題無しじゃない。元嫁が登場して修羅場になったりはしなさそうね!」
「ははは!それはないよ!別に連絡を取り合ったりもしてないし、あっさりした人だったから今はもう新しい旦那と幸せにやってるよ。」
「宮藤さんは今恋愛してもいいかな、とは思ってるんですか?」
なんとなく、宮藤さんには遠回しな言い方はしなくてもいい気がして、直接的な聞き方をしてしまった。ぶっきらぼうで、いまいち感情が読めなかった加賀美と比べて、宮藤さんには素直な自分が出せる。初対面の男の人と、こんなに打ち解けた気持ちになれるのは、初めてだ。
「恋愛はしたいよ!でも俺も仕事ばっかりしてて、なかなか機会がなくてね。」
私より遥かに恋愛に長けていそうで、外見も性格も魅力的な人でも、なかなか恋ができないんだとしたら、次々に恋人が見つけられる人は、一体どんな風に出会っているんだろう、と思ってしまう。
「宮藤さんみたいな方でも機会がないんですか?でも、女性がほっとかなそうですけど。」
「いや、まあそういう声かけはされるけど、逆にそういう雰囲気出されると引いちゃうんだよね。こんな見た目だから遊んでるように見られるけど、俺結構堅実だから。」
「じゃあ宮藤きゅんはどんな女がタイプなの?」
「タイプか…。んー、俺は仕事頑張ってる人が好きかな。あと愚痴をあんまり言わない人。お互い高め合える関係がいいな、と思ってるから。」
模範解答すぎるけれど、宮藤さんが言うと真っ当な答えのような気がして、納得してしまう。私は愚痴が多い女だろうか、と思いながら、スパークリングを飲み下した。
「んまー!お利口さんな解答!」
圭介が茶々を入れて、宮藤さんが苦笑いをした。
「都さんは?どんな男が好きなの?」
「私は……。」
言いかけたものの、二の句が継げない。私も前向きに仕事を頑張っている男が好きだけれど、そう答えたら、あざとい女だと思われそうで、気が引けてしまった。
「都はね、実直な男が好きなの。この子、こう見えてピュアだから、打算的な男とか、恋愛ゲームを仕掛けてくるような奴はダメね。」
圭介がうまく代弁して私に目配せをした。
「なるほどね!じゃあ俺とかどう?」
宮藤さんが笑顔で私を見る。この人に「どう?」と聞かれて首を振る女なんているだろうか、と思ってしまう。私は何も気の利いたことは口にしていないけれど、少しは好感を持ってもらえたんだろうか、と思いながら、誤魔化すように目を逸らしてしまった。
「だから宮藤きゅん、都はそういう恋愛ゲームはダメなんだってば!」
「え、ゲームじゃないっしょ。俺素直にちょっといいなって思ってるよ?」
畳み掛けるように言われて、耳が赤くなるのがわかった。こういう時、なんて答えるのが正解なのか、さっぱり分からない。初対面でこんなことを言われた経験はないし、こういう時に正しい答え方ができるスキルは持ち合わせていない。
「私…、嫌いじゃないです。宮藤さんのこと。」
言ってしまってから、顔から火が出るほど後悔した。宮藤さんに好感を持ったのは事実だけれど、お酒の力がないとこんなことは口に出せない。
「マジで?じゃあ今度は二人でデートしようよ。」
「ちょっと!何?あたしは邪魔ってこと?ひどい!」
圭介がうまく場を茶化してくれて、妙な空気にならずに済んだ。
帰り際、圭介がトイレに立ったタイミングで、宮藤さんにLINEを聞かれた。
「もし嫌じゃなければ、次はほんとに二人で会わない?」
内緒話をするように囁かれて、口元がにやけてしまうのをこらえながらうなづいた。
Writer : Miranda