自分でボトルを傾けずとも、自動的グラスにスパークリングワインがグラスに注がれる。

「都さんの仕事、尊敬するな。でもクリエイティブな仕事って、意外とストレスも溜まるでしょ?」

流れるように自然な所作で、ボトルをワインクーラーに戻しながら、宮藤さんが私に笑顔を向けた。男性らしい濃いめの眉と、整った鼻筋が印象的で、くっきりした二重の瞳が店の照明を反射してキラキラと輝く。圭介が熱をあげるのもうなずける、いかにもモテそうな雰囲気なのに、想像していたような嫌味な感じは全くない。

「それが、花のデザインを考えたり、作ったりするストレスは全然ないんです。むしろ自分の感覚を総動員して考えてる時間自体がストレス解消みたいな感じで。ストレスがあるとしたら、お局とかバカな後輩との人間関係の方かな。」

「きゃー!わかるわかる!あたしも散々いじめられたわ!あたしは都みたいにクリエイティブな感性がそこまでないって自覚して辞めちゃったけど、都は残って頑張ってほんと偉いと思う。この子が作るお花って、繊細で本当にセンスがいいのよ!」

「へぇ!それは是非作品を見てみたいな。俺もクリエイティブな感覚って全然ないから、羨ましい。」

初対面なのに、全くそれを感じさせない話の進め方は、さすが営業マンだ。クリエイティブな感覚はないと言うけれど、着ているスーツもカバンや小物もシャレていて、申し分ない。

「都、インスタにお花アップしているから、宮藤きゅんも是非フォローしてあげて!」

言いながら、圭介があたしに目配せした。変にくっつけようとしないで、と言ったはずなのに、さっきから圭介がやたらと私を持ち上げようとするのがこそばゆい。宮藤さんは確かに魅力的だけれど、今まで私が付き合ったとこのない部類の男で、好意を持っていいものかどうか、測りかねていた。

「え、フォローしてもいいですか?」

「もちろん。花の写真しか上げてないですけど。」

表参道の骨董通りを少し入ったところにあるこのビストロは、宮藤さんのチョイスで、落ち着いて過ごせる雰囲気が心地よく、料理もどれも美味しい。

こういう洒落た店を知っているあたり、デート慣れしているんだろうな、と思ってしまうけれど、嫌味な感じもギラギラした雰囲気も全くなくて、気配りのできるいい人なんだろうな、ということが伝わってくる。

「都さんは、付き合ってる人とかいないんですか?」

不意にまっすぐ目を見て言われて、思わず赤面しそうになった。

付き合ってる人、はいないけれど、体の関係だけ続けている祐樹と、デートっぽいことをした加賀美の顔がちらりと浮かぶ。

「今は仕事が忙しくて、全然。出会いの機会も全くないし。」

「え、そうなんですか。都さん、モテそうだから意外だなぁ。」

「モテないですよ。男受けしないのは十分自覚してます。」

卑屈な発言だっただろうか、と思ったけれど、モテないのも男受けしないのも事実だ。淡いピンクの可愛い服を着て、髪を綺麗に巻いている女子とは決定的に違っている。

「ホテルって働いてる人も多いし、誰かに言い寄られたりしないの?」

「しないですよ、全然。それにホテルで働いてる男って、どうしても好きになれなくて。」

「え、そうなの?」

ホテルで働いている人間は、皆多少なりとも二面性がある。表ではスマートで感じよく振舞っていても、裏の休憩室ではタバコを片手に下世話な会話をしていたり、客の悪口を言っていたりする姿を見かけるのは日常茶飯事だ。

「宮藤きゅん、ホテルの男ってそんないいもんじゃないのよ。あたしが働いてたホテルなんて、裏はヤクザの詰所かってくらいに感じ悪いやつばっかだったもん。特に花屋なんて下に見られてるから、偉そうにあれこれ言われたりぞんざいに扱われたりしてたまったもんじゃないわ!」

圭介がシャンパンを飲み干して息巻いた。空になったグラスに、宮藤さんが笑いながらスパークリングを注ぎ入れる。

「そういう意味では、俺も百貨店で働いている女性って苦手なんだよね。みんなそれなりに見栄えはするけど、裏の顔も知っちゃってるからなぁ。」

でも、百貨店の女たちがほっとかないんだろうな、と思いながらカマンベールのフリットを頬張った。

こういう華やかな雰囲気の男は、どんな恋愛をするんだろう。付き合ってみたらキャラが豹変して、俺様だったりするんだろうか。

1 2

Writer : Miranda

Message

「二人とも愛しちゃダメですか?」第7話はこちらから

 

最初から読む方はこちらから

Share iline Facebook Twitter