色々とそういうことじゃないんだよな、と思うことが増えている、気がする。

電車待ちに居合わせた、前方のおじさまがやけに小奇麗なのも、なんか違うし(あまりにもキマッているおじさんは中身が伴っていないときのギャップが半端なく、関わることさえ怖い)、超絶他人の過度なネイルアートを見てもなんか違うんだよ、と思ってしまう(ただ、性格が悪いだけなのかも)。コンビニの店員さんに、必要以上の笑顔を振りまいてしまう自分もなんか違う。26歳から30歳くらいまでは、まだ26歳の自分で居られたはずなのに、33歳になった今、一体自分は何歳なのかもわからないまま日々を過ごしているようで、知らない間にまた1つ年を重ねているのだ。別に年齢があがることを恐れているのではない。ただ、自己認識が全くもって追い付いていないのだ。

恋愛ひとつとってもこの自己認識が全く機能していないがために、行き場を失っている。

 

―元気?

―げんきー!元気なのか?

―そこそこ 今度東京行くからごはんどう?

―いつ?

―12月15日―18日。15と16は会食があるから、遅めからなら、それ以外はフリー

―オッケ。17日なら調整できると思う!

 

むかーし昔に、一度だけヤッたことのある先輩からのお誘いである。もちろんLINEではなくメッセンジャーである。こういうやり取りの時に、なぜだか必要以上に淡白な自分でいることを強く意識するのは悪い癖。絵文字は使わない。返事は簡潔に。向こうのペースにもっていかれないように、と。ホントの心は「呑みに」ではなく「ごはん」と言ってくれたことに、少し満たされているくせに。何日でも合わせるスタンスに満足しているくせに。

仲良くなった当時は、はっきり言ってパッとしないなと思っていた。26歳のちやほやされ盛りの私と、29歳のしがない営業マン。私よがりの物語で言うならば、付き合いたいと何度か迫られたけれど、忘れられない人がいると、華麗に振った相手だった(と思う)。それにしても「忘れられない人」なんていう青臭い言葉をよくもまあ使えたものだ。多分、間違いなく、言ってみたかっただけで。気持ち悪いぞ、私。忘れられない人なんていない。忘れるべき人がいないだけ。

そんな彼はその後転職先で出世して、それなりに成功しているらしい。確か取締役か何かと聞いた。それから、ちゃんと結婚もして、去年娘が生まれた、らしい。

 

―ここに19時半で!

―りょ!

―ごめん、10分遅れる。申し訳ない。

―りょー!

 

ぎりぎり遅れそうな自分のことにはまったく触れず、化粧直しをする時間がありそうだな、と、駅の女子トイレに駆け込んだ。その瞬間、あ、失敗した、と思った。ここは恵比寿だ。可愛い女子、美しい女、が、自分らしさの仕上げをしている。そんな彼女たちの顔と顔の間から自分の顔を覗かせつつ、気合いは入ってみえない「化粧直し」に精を出す。眉毛を足して、乾燥しているところに乳液を染み込ませ、唇はリップクリームから塗り直し、口紅を塗る。が、今付け直したとは思われたくないので、ティッシュを探すがそんなものは私の鞄に入っていない。財布を開けて、レシートを取り出して、ワンパクして。その姿を可愛い女子に見られてしまったけど、それはもう、仕方のないことで。女の匂いが充満するトイレを後にしお店に向かうとちょうど向こうも到着したところだった。

 

―おー、久しぶり。

―ちょうどだったね。

―何呑む?ビールでいいか?お腹すいてるよね?頼むの面倒だし串のコースでいいかな。

―うん、大丈夫。ありがとう。最近焼き鳥狂だからうれしい。

 

多分2年ぶりくらいに会ったのだけれど、いい感じに36歳になっていた。間髪入れさせない注文の仕方も、ちょっと不機嫌そうな顔も、無駄にいいスタイルも昔と変わっていないのだけど、昔より少しいい服を着ている。正直、いい男だった。

 

―どうしてんの?最近。どうせ仕事ばっかりしてんだろ?

―まぁそうかな。相変わらず毎日呑んだくれているよ。

―お前痩せたんちゃう?

―いや、体重は変わってないからやつれただけだと思う。笑

―ちょっと老けた、確かに。

―うるさい!

 

とりあえず他愛もない会話や昔話を繰り返した。

でもそれでも、そうそう、こんな感じだったなぁと、6-7年前の幸せな気持ちが蘇ってきて心地がいい。当たり前に常に誰かに愛される対象である自分に酔っていた時間。みんなが自分のことを好きになる可能性があると心底信じていた。世界一の馬鹿だったと思う。

 

―で、お前はあのヤバい男とはどうなってるの?

―きれいに別れた。その節はご迷惑おかけしました。

そういえば最後にあった日、当時つきあっていた男から鬼電が鳴りやまなかった。3時間くらいの間に78件の着信が残っていて、あぁこれはもうダメだ、と別れを確信した夜だった。でもその日、もしあの鬼電がなかったら、また一線を越えていたかもしれないなぁなんてことを妄想しながら、ぺこりと頭を下げてみる。

―そうか。それは、まぁよかったな。今彼氏は?

―うん、いない!いいなと思う人はいるけど、色々難しいね。

(なぜか、嘘をつく)

そっちはうまくいってるの?やっぱり子どもできて変わった?

―めっちゃ子どもがかわいい。自分もこんなにかわいいと思うタイプじゃないと思ってたから、びっくりしてる。

―いいなぁ。なんかめっちゃ幸せそう。奥さんは仕事復帰してるの?

―おぉ、しているよ。偉いなぁと思うよ。別に働かなくてもいいんだけど、自立していたいらしい。笑

まぁまぁそれなりには、色々あるけど仲良くはやってるよ。

―ふーん、なんか面白くない!笑 で、今彼女は?

―いるよ。

少し間があって、想定していない返答が戻ってきた。

そして、大変恐ろしいことに、今、私は、奥さんと子供がいるという幸せ話を聞いていたことよりも、この人が今恋をしているという事実に打ちひしがれている。

 

―マジかー。男に生まれてみたかった。彼女は何歳?

―27かな。まぁ俺は奥さんと別れる気はないから、後1年くらいで去っていくんだと思うよ。いつもそうだし。

―いつもって・・・・・笑 あー、男に生まれてみたかった!!!!

時計を見ると22時を過ぎたところだった。

それはそれは優しい鶏スープを啜りながら

―もう一件いける?

と彼は言った。

 

23時40分、2件目に訪れたどこにでもありそうな洒落たバーのカウンターで、それはそれは当たり前のごとく成り行きでキスをした。

きらきらと愛されていた(はず)の過去までも、きれいに塗り替わっていく夜だな、と思った。

私はもう、ワンオブゼムでもない。

そして、自分自身に、なんか違うんだよな、と心の中で言い放った。

 

 

 

Writer : あくびちゃん

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